租税法の重要度について
論文即効速攻を受講させていただいてるものです。
租税法の重要度について質問です。
「グループ法人税制」「組織再編税制」について対策をどの程度していけばいいのか悩んでいます(現状は手付かずです)。
よろしければ教えてください(ハンドルネーム:Fe)
どうも、松本です。
即効速攻受験生からのご質問です。
今年の8月の論文試験に関するご質問なので、優先的にアップしていきます。(短答についてご質問頂いている方、もうしばしお待ちくださいね。順に回答していきますので。)
まずは、租税法の出題範囲の要旨(H29年度)を確認していきましょう。
以下、抜粋です。(公認会計士・監査審査会、出題範囲の要旨より)
租税法の分野には、租税法総論及び法人税法、所得税法などの租税実体法が含まれる。
租税実体法については、法人税法を中心として、所得税法、消費税法の構造的理解を問う基礎的出題とする。また必要に応じ、これらに関連する租税特別措置法、並びに法令の解釈・適用に関する実務上の取り扱いを問う。国際課税については、法人税法に規定する外国法人の法人税のほか、所得税法に規定する非居住者及び法人の納税義務並びに外国税額控除のみを問うものとする。例えば、タックスヘイブン税制、移転価格税制、過少資本税制は出題範囲から除外する。また、連結納税制度については、当分の間、出題範囲から除外する。なお、グループ法人単体課税制度は出題範囲に含める。
相続税法、租税手続法、租税訴訟法及び租税罰則法については、当分の間、出題範囲から除外する。
何だかややこしそうなので、簡潔にまとめたものがこちら↓
外国税額控除 | ○(対象) |
タックスヘイブン税制 | ×(対象外) |
移転価格税制 | ×(対象外) |
過少資本税制 | ×(対象外) |
連結納税制度 | ×(対象外) |
グループ法人単体課税制度 | ○(対象) |
組織再編税制 | ○(対象) |
相続税法 | ×(対象外) |
租税手続法、訴訟法、罰則法 | ×(対象外) |
まず、結論からいきますと、
私ならば、「グループ法人税制」と「組織再編税制」について特別の対策はしません。
以下、その理由について順を追ってロジックを説明していきます。
まずは、グループ法人税制からいきます。(以下、グループ法人税制は「グループ法人単体課税制度」のことを指しています。)
グループ法人税制は連結納税制度と同じ、H22年の法人税法の改正により創設されました。
納税は単体で行うのが大原則ですが、「これからは企業集団を通じたタックスマネジメントも重要だよね。」といった観点から、創設された経緯があります。
2つの制度はともにいわゆる「完全親子関係(親が子の100%の株式を取得している)」の場合に適用の及ぶ規定です。
が、連結納税制度は任意適用なのに対し、グループ法人税制は連結納税制度を適用しない法人については強制適用なのです。
まずは、この理由から説明します。めっちゃ簡単なロジックです。
連結納税制度は国にとって納税額が減少する可能性があるから任意
グループ法人税制は国にとって納税額が増加する可能性があるから強制
なんです。
連結納税制度は企業グループで一つの申告書を作成して納税する制度であり、親会社の課税所得と子会社の欠損金を相殺することが可能です。
そうなれば、企業集団としての課税所得は下方に減額されるわけなので、国からすれば、減税の機会を与えることになってしまいます。
だから、この制度は任意適用なのです。
一方で、グループ法人税制は「納税自体は各社ごとに単体で行わせるものの、完全親子関係の場合については一部取引については修正を加えますよ」という制度であり、その創設の趣旨は子会社を悪用した逆粉飾の防止だと言われています。
具体的には…
親会社(P社)が100で買ってきた商品を子会社(S社)に80で販売するケース(低価格押し込み販売)を考えてみます。
この場合、P社で計上される20の損失(会計上の赤字)は、同時に20の欠損金(税務上の赤字)でもありました。
この低価格押し込み販売は、S社は子会社であり、親会社P社の意のままに従うしかないから、低価格でも購入せざるを得ないという関係性を悪用した逆粉飾(納税額を少なくするために、課税所得を少なく見せる粉飾)の代表的な手法です。
これがP社における過度の節税(=脱税)の温床につながるという指摘がなされておりました。
グループ法人税制の下では、この手法による節税が使えなくなります。
つまり、
P社における20は税務上、損金不算入になるのです。
ちなみに損金算入要件は、S社が企業集団外部に売却した時です。
即ち、連結財務諸表における実現要件(企業集団外部に売却)を満たした時に売却元にて損金算入が可能となるのです。
だから、このグループ法人税制は国からすれば損金計上時期を遅らせることができる。
換言すれば、税金を早めに徴収することができる。これが強制適用となっている理由です。
お金ないんすよ。国。
だから早く徴収する制度(所得税の源泉徴収や法人税の仮払による中間納付が代表例)は強制適用(=義務)なのです。
ちなみに、今回の質問とは関係ないですが、遅く徴収する制度って何でしょう?
代表例は「圧縮記帳」ですね。課税の繰延が論拠である旨は学習したことと思います。
なぜ、遅く徴収する制度を認めたのか。
それは、固定資産の購入時に多額のキャッシュアウトがあるため、これに加えて税金によるキャッシュアウトまで重なると資金が多額に流出してしまうからです。
こうなると資金ショートの可能性が高くなることを理由に購入しない会社が増えてしまう。
国としては「設備投資は景気を循環させる上で不可欠だから、購入の際に税金による手出しを少なくしてあげよう。
でも国もお金はないから、免税にはしないよ。」と。
こう考えたわけです。
これが、課税の繰延であって免税ではない理由です。
質問者さんのステージなら分かると思いますが、個別税効果会計における将来加算一時差異(差異の解消時に課税所得が加算する一時差異)は税の支払いを遅らせることになりますが、この取り扱いが認められているものは基本的に「国が政策的に関与している(税金は最終的に徴収)」という点と「対象が固定資産(設備投資による景気刺激策)」であるという点で共通しています。
特別償却準備金も圧縮記帳と同様の趣旨なんですよ。
だから、両者は当然、任意規定です。(国からすれば、遅く徴収することを必須にする必要がないですから。)
閑話休題。
話が脱線しましたので、元に戻します。
さて、会計士試験の租税法では
連結納税制度は対象外、グループ法人単体課税制度は対象となっており、「基本的には単体」をベースにした出題になります。
もし、グループ法人単体課税制度が出題された場合、私ならば特別の対策をしません。
その代わり、上記の趣旨を踏まえて
例えば、P社における20の損失を計上すれば「損金不算入」(商品売却損やら、グループ内での寄付金の支払等)
50の利益を計上すれば「益金不算入」(受取配当金やら、グループ内での寄付金の受取等)
のように「課税を繰延べる」ことだけを考える必要性については意識しておきます。
もしめちゃ細かい規定が出題された場合には、誰も対策できてないでしょうから、捨てて構わないと思います。
では、もう一つ。
組織再編税制に関してです。
組織再編(合併、吸収分割、株式交換、株式移転等)については、私なら質問者さんの状況なら切ります。(特別な対策はしません。)
理由は2つ。
@組織再編の実態は連結ありきですが、複数の会社を想定する「連結納税制度」自体が対象外であること。
A法人税の計算問題の空欄記入箇所が30か所(H28年の場合、問1が27か所、問2が3か所)あり、仮に問2の小問として出題されたとしても、配点のウエイトが低く、コスパが悪いこと。
@では重要性が低い、Aでは難易度が高いということが言いたいわけです。
組織再編税制には、「税制適格」と「税制非適格」という2つの税法上の分類が存在します。
「税制適格要件」というのを満たせば、「資産・負債を簿価で承継」する「課税の繰延」が認めらます。
ただし、P社がS社を吸収合併するような一定の取引(共通支配下の取引が代表)にしか当該要件を適用できません。(上述した通り、課税の繰延には税務当局が簡単に認めない理由があるのです。)
しかもこれを出題させるならば、@における連結納税制度自体が試験範囲から除外されていることとの整合性が図れなくなります。
それ故、通常は「税制非適格」に該当する可能性が高くなります。(特に実務は)
この場合
取得側は「資産・負債を時価で計上」となり、
売却側は売却益(移転利益等)に対して単体で課税されます。
こう聞くと難しそうですが、移転する事業を「固定資産」と読み替えて理解するのがコツです。
固定資産は買うときは時価で買います。
売る時は簿価と時価の差額が売却損益となり、税務上は損金又は益金になります。
これだけは理解できれば十分です。
あとは、もし万が一出題されたらこの2つの観点から現場で税務処理を考えていく。
完全なる部分点狙いの思考で良いと思います。
Aにある通り、配点の比率も高くないことが予想されますし、@にある通り、そもそも出題可能性も高くないと考えられます。
すっかり長くなりましたので、質問内容に対して簡潔に回答をまとめます。
グループ法人税制は単体で出す会計上の損失を税務上の損失にしない(損金不算入にする。)
損金算入要件は連結会計の実現(企業集団外部に対する販売)と同じ
組織再編税制は、税制適格は出題されたら切る。
税制不適格は固定資産売買と同様の考え方でOK(会計と税務に違いなし。)
上記以外については、特別な対策を講じる必要はありません。
逆に、上記の考え方で解ける答練や模試があれば、出来る範囲でやってみても良いと思います。
即効速攻の講義で説明した通り、租税法は「松本式ランチェスター戦略」を駆使して、合格点を狙う戦略が現状では最も有効です。
持たざる者は手を広げすぎると自滅します。
インサイドアウトの視点を持って、出来うる範囲を随時拡大していきましょう。
租税法に関して言えば、論文試験までの残り2ヶ月からが本当の勝負です。
まだ間に合いますよ!
頑張って下さい。応援しています。
以上です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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