Q007:短答合格者の採用制度について
松本先生に質問があります。
私は昨年12月の短答式試験に合格し、現在は8月の論文式に向けて勉強している者です。私は大学を卒業して3年目で、経済的な事情で今回落ちたら働く必要があります。
そこでお伺いしたいのですが、大手監査法人の短答合格者採用の倍率はおおよそどの程度なのか、もしご存知でしたらお教えいただけないでしょうか。
もちろん8月に向けて全力を尽くすことにかわりはありませんが、もしも落ちてしまった場合もできれば監査法人で勤務したいと考えております。短答合格者採用の倍率がどの程度なのかある程度知っていた方が覚悟のできた状態で試験勉強に臨めると思い、質問させていただきました。(匿名希望)
どうも、松本です。
本日は短答合格者の採用についてのご質問です。
大手監査法人の短答合格者の「倍率」がどの程度か、というご質問ですね。
「倍率」て。採用者数の目途はつきますが、面接受験者数は正直分かりません。。。
「不明」では回答になりませんので、ここは一つ、簡易版「フェルミ推定」でもやってみましょうか。
まず、採用予定人数ですが、昨年実績でトーマツ東京で20〜30名、新日本で30〜50名程度でしょうか。(新日本の短答受験者を採用する「監査トレーニー」制度は150名程度の採用実績があります。)
あらたは40〜50名、あずさはやっていません。
今年は更に大阪や名古屋でも拡充するという話を聞いています。(真偽のほどは不明ですが。)
ここから推測すると大手監査法人全体で150名〜200名前後かな、と思います。
(ちなみに中堅どころである優成監査法人は昨年から募集を開始しており、若干名の採用実績があります。)
では、次に論文不合格者うち、この制度の面接受験者数を推定してみます。
今年(H29年)の論文受験予定者約3,300名のうち、過年度(H27年、H28年)短答合格者は概ね1,400名います。
今年の合格者数が前年と大差ないと仮定して、この1,400名をベースにして順次補正をかけていくことにします。
学生による補正 Δ300名(昨年受験700名−合格400名:3年不合格は再受験、4年不合格は無職で専念かアカスク行きが多い!?)
地域による補正 Δ10%(採用は東京、大阪、名古屋が多く、受験者全体の90%)
年齢による補正 Δ20%(20歳から35歳までの採用が多く、受験生全体の80%)
意志による補正 Δ50%(2人に1人は、実力不足を認識しての不合格。再度専念を誓う(はず))
認知度による補正 Δ5%(20人に1人は、この制度の存在を知らない!?」)
(1,400名−300名)×(1−10%)×(1−20%)×(1−50%)×(1−5%)≒376名
概ね、面接受験者数は300名〜400名といったところでしょうか。
採用予定人数が全国で150名〜200名といったところをベースに考えると・・・
内定率は最小37.5%〜最大66.7%の間でしょう。
質問者さんは「倍率」をご所望でしたので、倍率は最小1.5倍〜最大3.0倍だと推察します。
あくまで気休めの情報に留めておいて下さいね。
つーか、何人受けるかなんて分からん。。。
わしゃ、仙人かい!
短答合格者採用制度にのるべきか?
個人的にはあまりおススメしません。
理由は下記の3点に集約されます。
@個人的に「上がった気」になる(気持ちの問題)
A実はこの制度利用者の論文合格率があまり高くない(結果の問題)
B論文合格時点で、法人を選び直せない(キャリアの問題)
というデメリットが大きいからです。
@は公認会計士を目指して、監査法人に入所している状態が、既に試験が終わった(いわゆる「上がった」)錯覚に陥る危険性が多分にしてあります。
つまり、目の前の状況に満足してしまい、ハングリー精神を持って論文試験に臨むことが難しくなる可能性があるということです。
A実際の論文合格率は概ね50%程度だと聞いています。(2人に1人は不合格になる現状があります。)
短答合格者採用制度は基本的に、短答合格者としての地位を有する状況においてのみ意味を帯びます。
換言すれば、論文で三振(3回不合格)になれば、短答合格者としての地位は消えるため、「クビ」が宣告されます。
ここに関しては、結構シビアな世界ですので、そのリスク要因も織り込み、覚悟を持って臨む必要があります。
B短答合格者を採用する監査法人の思惑、それは、「短答合格者の段階から採用者を囲い込みたい」という点にあります。
従って、論文合格後はお世話になった監査法人でスタッフとして勤務するのが当然の前提になります。
論文に合格した時に、やりたいことが変わってしまったから、監査法人を変えるなどといった行為はご法度です。
不義理だけは絶対にしてはいけません。自己責任で選んだ道です。
短答合格者採用制度を利用しても良い人
@金銭的に働かざるを得ない人(まずは、これありきです。)
働かなくても良い状況なら、絶対に受験に専念しましょう。論文合格者のうち、無職者は毎年4割程度もいます。
A行きたい法人が決まっていて、その法人がこの制度を利用していること
B論文の不合格者における全体順位が500位以内であること。(次回の論文の合格圏内にいることが前提)
受験者が3,300名、合格者が仮に1,200名だと仮定すると不合格者の全体順位500位は、合格者も含めた全受験生3,300名中1,700名ということになります。
つまり、論文受験生の半分の順位でしかないのです。
上述した、「上がった」気でいると、間違いなく次回の論文試験も突破できません。
C不合格の要因が自分で特定できている人(租税法の計算が壊滅的だったとか、企業法の論証の仕方がズレていた等)
要は、次回は足りなかった弱点科目や苦手論点を克服すれば絶対に大丈夫と言える人です。
落ちた理由がよく分からない又は、全科目が不出来であれば、腰を据えて論文の勉強に専念すべきです。
安易に「目の前の人参」には飛びつかない方が良いです。
社会に出たいと焦る気持ちや目の前の誘惑に駆られる衝動は理解できます。
しかし、その気持ちの弱さこそ、あなたが克服すべき心の弱さなのです。
論文合格者は口を揃えて言います。
「この試験を通じて、本当に精神的に強くなった。」と。
では、最後にエヴァンゲリオンの主人公、碇シンジ君の言葉でお別れすることにしましょう。
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。」
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