公認会計士への道

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質的重要性と合格答案

【ペンネーム(匿名希望でもOK)】
 匿名希望
【ご質問内容】
 初めまして、いつも正しく読ませていただいています。
さて、日産の問題について量的重要性から監査意見上、問題なしとされていましたが、質的重要性からはどうでしょうか?役員報酬は質的に重要な気がします。(原文そのまま)

 

どうも、松本です。

 

上記のご質問は以前にUPした日産の記事に関するものです。(まだ見たことのない方はこちらから先にご確認下さい。)

 

良き観点(量と質の対比)からの質問であることと、特に監査論の学習初心者の方に有益な情報を提供できるという判断から、記事として取り上げることにしました。

 

では、早速行きましょう!

 

まずは定義の確認からです。

 

量的重要性と質的重要性とは何か?

 

分かりやすく、以下の4つのケースで説明します。

 

ケース1

 

B/Sの売掛金は100であるが、実際には120であった。

 

この差額の20は「量的重要性」の問題です。

 

つまり、量的重要性とは金額的重要性と同義です。

 

ケース2

 

B/Sの売掛金は100であるが、実際には未収金であった。

 

これは、金額の問題ではありません。だから、量的重要性の問題ではありません。

 

B/Sに表示されている科目が異なる、これは「質的重要性」の問題です。

 

ケース3

 

B/Sの備品は100であり、注記には備品を「定額法」で償却している旨の記載があるが、実際の償却方法は「定率法」であった。

 

実際に「定率法」で計算した結果の備品が100であるため、計上金額自体が間違っている訳ではありません。

 

単に、注記の記載内容の誤りです。これは「質的重要性」の問題です。

 

ケース4

 

B/Sには、のれんが100計上されているが、のれんを生じさせた取引に関する注記がない。

 

企業結合(吸収合併)に関する注記の漏れです。

 

これは「質的重要性」の問題です。

 

まとめると

 

量的重要性金額の観点からの重要性

 

質的重要性財務諸表の表示科目や注記の記載内容の誤り記載漏れの観点からの重要性

 

ということになります。

 

監査論の学習初心者は、

 

金額=量的重要性

 

表示&注記=質的重要性

 

と覚えておけばOKです。

 

さて、冒頭のご質問です。

 

「役員報酬は質的に重要な気がします。」

 

本当にそうでしょうか?

 

今回は、役員報酬を「質的重要性」の観点から検討してみます。

 

質的重要性はF/S内の表示とF/S外の注記について適用されます。

 

まずは注記からいきます。

 

結論から。

 

役員報酬に関する注記というのは、存在しません。

 

リース取引や、退職給付、税効果などは注記が必要です。

 

役員報酬が注記の対象になるのは、損益計算書の「販管費の主要な費目」に記載される可能性がある程度です。

 

日産の場合だと、役員報酬は金額的に軽微ゆえに、注記として反映されていません。

 

だから、注記の記載内容に誤りがある訳でもないし、注記に漏れがある訳でもありません。

 

つまり、役員報酬は、注記の対象外です。

 

では「F/S内の表示の問題か?」と言われればそれも違います。

 

10億円と記載されていた役員報酬が実際には20億円だった。

 

これが役員報酬の「過少記載問題」ですが、これは、前述したケース1に該当します。

 

つまり、「量的重要性」の問題です。

 

F/S内の表示の問題というのは、ケース2のように

 

交際費として10億円を計上していたが、実際には役員報酬を10億円として計上すべきであった。

 

のような「表示科目の入り繰り(実務では、これを「reclass(リクラス)」と言います。)」を指します。

 

以上より、役員報酬の記載漏れは質的重要性(F/S内の表示や、F/S外の注記)の観点からは問題がないことが分かります。

 

つまり、監査意見に影響が及ぶことはありません。

 

結論:役員報酬の記載漏れの問題は、質的重要性の観点からも軽微であり、監査意見に影響は及ばない。

 

ここまでは、監査論の講師としてロジカルに説明させて頂きました。

 

しかし、もっとシンプルに冒頭の質問に対して回答することも可能です。

 

それがこちら。↓

 

役員報酬の記載は有報の「コーポレート・ガバナンスの状況」に関する記載の問題であり、そもそも監査証明の対象外である。

 

だから、監査意見に影響が及ぶことはない。

 

これで終わりです。

 

えっ、分かりにくい?

 

では、違う事例で説明してみましょう。

 

監査証明の対象である「経理の状況」を日本、対象外である「コーポレート・ガバナンスの状況」を韓国だと考えてみます。

 

今、韓国では未曽有の経済不況に陥っています。

 

韓国の2018年8月の若年層(15歳から29歳)の失業率は9.4%であり、アジア通貨危機後(1999年8月)の10.7%に続く最悪水準です。(韓国統計庁の発表より)

 

対照的に、日本は空前のバブル景気再来の様相を呈しています。

 

2018年春に卒業した大学生の就職率は98.0%です。(文部科学省と厚生労働省の調査より)

 

韓国の失業率が高い問題は、韓国の若者にとっては「重要」ですが、日本の若者にとっては、ハッキリ言って無関係です。

 

つまり重要ではないのです。

 

「コーポレート・ガバナンスの状況」(韓国)の問題を「経理の状況」(日本)の問題にすり替えてはいけません。

 

もちろん、「レーダー照射問題」のように韓国の問題が、日本の問題になることもあります。

 

質問者さんが「役員報酬は質的に重要な気がします。」と指摘しているのは、恐らく役員報酬の記載漏れ(コーポレート・ガバナンスの状況)は、利害関係者に与える点から経理の状況にも重要な波及的影響を及ぼすのでは?

 

ということだと思います。

 

しかしながら、前述したとおり、財務諸表に与える観点からは量的にも質的にも影響は限定的です。

 

換言するならば、「経理の状況」(日本)にとっては重要ではないという結果が出ています。

 

じゃあ、良いじゃん。

 

監査意見を変更するほど、財務諸表に重要な影響が及ぶ訳ではないのですから。

 

日本の公認会計士は「経理の状況」(日本)の信頼性を担保するために存在しています。

 

お分かり頂けましたでしょうか?

 

最後に、本日の内容について監査論の論文試験の問題を想定してみました。

 

一緒に確認して行きましょう。

 

問1 役員報酬の記載漏れが判明した場合において、質的な観点から監査意見にはいかなる影響を及ぼすか。あなたの考えを述べなさい。(10点)

 

 

解答1(10点)

 

役員報酬の記載は財務諸表の注記を構成する訳ではなく、また記載漏れ自体は財務諸表に計上されている表示項目の変更を生じさせるものでもない。

 

よって、質的な観点からは監査意見に影響は及ばない。

 

解答2(7点)

 

役員報酬の記載は有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」に関する記載の問題であり、そもそも監査証明の対象外である。

 

だから、監査意見に影響が及ぶことはない。

 

 

問2 下記の会話文の下線(a)について、生徒はなぜそのように発言したのか。考えられる理由を説明しなさい。(10点)

 

講師:「〜というわけで、量的な観点からは監査意見に影響は及ばないことが分かりましたね。」

 

生徒:「はい先生。では質的な観点からはどうですか? (a)役員報酬は質的に重要な気がします。

 

 

解答1(5点)

 

役員報酬の記載は、経済的意思決定を行う利害関係者にとって重要な投資情報だから。

 

解答2(7点)

 

役員報酬の記載は、同業他社と比較することで、業界水準を推し量ることができる情報としての価値を有するから。

 

解答3(7点)

 

高額の役員報酬は、投資者にとっては関心が高く、適正報酬を受領しているかを知る権利があるから。

 

解答4(10点)

 

所有と経営が分離されている株式会社においては、本来株主が受け取るべき利得を経営陣が不当に搾取している可能性がある。
そのため、株主保護の観点より、役員報酬の記載は開示情報として重要だと考えられるから。

 

 

受験学校の模範解答は1通りで記載されていることが大半ですが、複数通りあっても全然OKです。

 

アカ凸では、「模範解答(10点)」「超合格点答案(7点)」「及第点答案(5点)」のように複数パターンの記述を論証テキストに反映させる予定です。

 

ちなみに、本番では及第点答案(5点)が書ければ余裕で合格です。(これはマジです。)

 

必ずしも、模範解答(10点)にこだわる必要はありません。

 

一番しっくりくる論証を理解しておけば十分です。

 

論文受験生の皆さんは、「覚えたことを書こう。」というスタンスではなく、「考えたことを書こう。」というスタンスで勉強すると、学習負担は軽減されるはずです。

 

特に監査論の場合、得点は暗記量ではなく、思考量に比例します。

 

考える行為って面倒くさいですし、手っ取り早く暗記に走りたくなる気持ちも分かります。

 

でも、試験委員は「あなたの考え」を聞いているのです。

 

だから、常日頃から考える習慣は必要です。

 

こういった、合格者が有する思考法や勉強方法論文試験に対するマインドセットは、アカ凸の「速攻×即効の論文対策講座ver.2.0」でもしっかりとお伝えしていきます!

 

今回の記事や私の伝えたいメッセージが、会計士の受験勉強に少しでもお役に立てれば、幸いです。

 

改めて、ご質問頂き、ありがとうございました。

 

そして、最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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