Q019:監査論(短答)の勉強方法
松本先生 教えてください。
どうもはじめまして。
現在TACで、18年の5月短答へ向けて勉強しているものです。
監査論が弱いので
問題集として LECが出している 監査の一問一答を購入したのですが
先生個人としては この問題集について どう思われますか?
はじめに 基礎重視と書かれていましたが
重要ランクの記載もないため
過去問を重視して 抽出されているのかもわかりません。
この問題集を繰り返すのであれば
過去問を仕入れて 繰り返す方が 効率・効果的でしょうか?(ハンドルネーム:はる)
どうも、松本です。
今回は、監査論についての短答で有用な勉強方法について記述します。
まずは、質問に対する結論から。
私はLECの一問一答問題集の利用を推奨していません。(元よりLECに限らず、一問一答による監査論の勉強自体をおススメしていません。)
それはなぜか?
一問一答には致命的な欠点が2つあるからです。
以下で、順次説明していきます。
まずは、下記の平成30年第1回の問題1のイの肢の正誤を判定してみましょう。
財務諸表の監査は,重要性の概念を適用して行われるが,監査報告書の利用者は,監査人が,監査計画の策定時に決定した重要性の基準値を知ることはできない。
この肢は、近年の監査論の出題傾向を如実に反映している問題です。
ちなみに、正答は「○」です。
監査報告書の利用者が情報源として、監査人側からのメッセージを受け取れるのは、「監査報告書」だけです。
ゆえに、本問は監査報告書の「監査人の責任区分」に重要性の基準値の言及があるかどうかを試す問題です。
「監査人の責任区分」の記載事項が8つあることは暗記することを推奨しています。(講義で言及している数少ない暗記事項の1つです。)
これを覚えている受験生であれば、「監査報告書には重要性の基準値についての言及はない⇒監査報告書の利用者は当該、重要性の基準値を知ることはできない⇒○だ!」
となります。
もし覚えていない場合でも、正当にたどり着くことは可能です。
仮に、重要性の基準値が監査報告書に記載されていると仮定しましょう。(記載する根拠は、監査が利害関係者保護のための制度なのだから、保護の主体に監査人側からのメッセージとして重要性を開示することは必要である、との論拠です。)
この場合、開示に意味がある情報は期末時点で確定した重要性の基準値なはずです。
こう判断できる受験生であれば、「「監査計画の策定時に決定」した重要性の基準値は暫定情報⇒監査報告書には載せる必要はない⇒監査報告書の利用者は当該、重要性の基準値を知ることはできない⇒○だ!」
ロジカルフローとしては、
1.問題文の意図が、「監査報告書の記載事項」の有無を問うていることを判断できるかどうか。
2.実際に「重要性の基準値」が監査報告書に記載されないことを知っているかどうか。
3.知らない場合、「監査計画の策定時に決定」した情報まで開示する必要があるかどうかを判断できるか。
の3点から正答を導いていくことになります。
では、この問題を一問一答形式にすると、どのような出題になるでしょうか?
もし、一問一答の肢別判定なら、下記のような出題が予想されます。
監査報告書には、監査計画の策定時に決定した重要性の基準値が記載される。
○か×か?
これは、上記のロジカルフローで言う「2」の力の養成にはある程度、貢献はしてくれます。
しかし、このようなど真ん中ドストレートの出題は減少傾向にあります。(ちなみに論文はすべて変化球しか投げてきません。)
強いて言えば、「意図して論点をずらしてきている」
これが近年の短答の試験傾向です。
上記ロジカルフローの「1」や「3」は監査論を体系的に理解していないと、出てこない発想です。
だから、講義では日ごろから「理解の重要性」を説いています。
一問一答だけに頼りすぎると、暗記にひた走る学習に徹した結果、思考力や応用力が養成されないというダークサイドがあることは知っておきましょう。
これが、監査論において一問一答を推奨しない1つ目の理由です。
では、もう1つの理由。
やはりこちらも、問題を確認しましょう。
以下の肢の正誤を判定してください。(一問一答より)
前任監査人は、監査人予定者及び監査人からの監査調書の閲覧請求に対しては、誠実に対応しなければならない。
こちらの正答はナント「×」になっています。
一問一答には、こう書いています。
本問の記述は誤りである。前任監査人は、監査人予定者及び監査人に対しては、監査調書の閲覧の求めに応じなければならない。(監基報900の第15項)
一問一答の作問者の趣旨としては、「前任監査人は後任監査人からの監査調書の閲覧請求には、応じることが必須であって、誠実に対応するだけでは不十分だよ。」ということが言いたいのだと思います。
でもこれは絶対にオカシイ!
一問一答の正誤を反対解釈すると、「前任監査人は、監査人予定者及び監査人からの監査調書の閲覧請求に対しては、誠実に対応しなくてもよい。」ということになります。
ちょっとイメージしてみましょう。
☆監査人の交代(引継)の場にて・・・
後任監査人「監査調書を見せて頂けませんか?」
・・・
・・・
ムシする前任監査人。
しびれを切らす後任監査人
後任監査人「あのー、すみません。監査調書を・・・」
その時です。
前任監査人「うるせえ、見せてやるよ。実務指針にも誠実に対応しなくても良い、って書いてあんだろ。いずれ見せてやるから黙っとけ。」
・・・変な雰囲気になる現場。。。
かかる現場環境を是認することを、実務指針の作成主体である日本公認会計士協会が考える訳がありませんよね。
本試験なら、この肢の正誤は「○」になると思います。
なぜなら、監査調書の閲覧請求に誠実に対応するのは、良識ある監査人(社会人)としては当然の行為だからです。
もし、この肢を×にしたいのであれば、私であれば下記のような問題にします。
前任監査人は、監査人予定者及び監査人からの監査調書の閲覧請求に対しては任意であるが、誠実に対応しなければならない。
でも、この問題は「監査調書の閲覧請求に対しては、誠実に対応しなければならない。」⇒×「監査調書の閲覧の求めに応じなければならない。」⇒○
という軽々とした理解に終始してしまう。
基準上の形式的な文言に必要以上に反応してしまうという、悪しき習慣を形成する可能性があります。
換言すれば、字面だけを追った表面上、表層上の正誤判定にハマりがちになる。
これが一問一答を推奨しない2つ目の理由です。
以上のような理由から、監査論の上級講義の受講生には一問一答を中心とした学習には警鐘をならしています。
受験が暗記重視から理解重視へのパラダイムシフトを切る中、暗記一辺倒の学習というのは、もはや時代錯誤の学習法になりつつあります。
平成30年第1回の監査論の傾向と今後の対策をこちらにアップさせて頂きますので、宜しければご確認下さい。
1つのインプットから10のアウトプットを導く、「演繹的思考」が監査論学習では効果的かつ効率的となります。
そのためには、
まずは講義をしっかり理解すること、そしてそれを自分の言葉で良いので説明できるようにすること。
上記の短答分析会レジュメにも記載した通り、過去問からの焼き直しが全体の半数程度を占めています。
それゆえ現状、最も効果的なアウトプット媒体は「過去問」一択ということになります。
☆過去問のおススメの使い方
私が考える、監査論の過去問を使ったおススメ学習法をお伝えします。
それは、
1つの問題について時間無制限で必ず4肢を検討した上で、自分なりの答えを出す訓練をしてみるということ
です。
監査論の場合、正誤判定肢は4つ(ア、イ、ウ、エ)、正しいもの2つを選ばせる選択肢は6つ(アイ、アウ、アエ、イウ、イエ、ウエ)あります。
例えば、アが〇、エが×であると判定できたとします。
この場合、ウとエの正誤については自分の中で徹底的に考えつくして、必ず強弱をつけます。
答えが分からないという理由で、すぐに解答を見てはいけません。(テキストやレジュメ等の参照も禁止です。)
イメージは「ブレインストーミング」を実践するように、脳内で思考の限りを尽くすのです。
制限時間を意識する必要はありません。とにかく持てる知見を駆使して、限りなく○(或いは×)に近い肢はどちらを徹底的に立ち止まって考えるのです。
そうして、自分なりの答えを導出できたら、解答を確認します。
この時のポイントは
1問解き終えたら、すぐに解答を確認することです。
20問解き終えてから、20問分の解答を確認してはいけません。
自分が考えつくして導出した思考のプロセスや仮説が正答につながっているかは、時間を空けずに確認します。
そうすることで、少しずつですが「考え方のポイント」や「解くときのコツ」を掴んでいくことができます。
監査論は思考量が得点に比例するという、少々変わった特性のある科目です。
だから、しっかりと考えるクセをつけておくこと、それが短答と論文を突破する上で有益な学習法であることは断言できます。
お役に立てれば、幸いです。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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