Q021:「あと1問の壁」を突破する5つの方法
松本先生、いつもお世話になっております。
さて、さっそくなのですが質問があります。私は社会人受験生なのですが、短答がどうしても突破できません。
先日の短答式試験でも、管理で失敗してしまい、ボーダーに届かず落ちている可能性が高いです。
LECの答練、模試等では上位の成績を獲得することができます。また、同じ予備校では問題への慣れがあるだろうということで、TACの公開模試を受けたところ、こちらでもかなり上位を取ることが出来ました。
しかし、本番ではどうしても「あと一問」が取ることができません。
学習スタイルとしては、計算については上級問題集をベースに、答練で間違ったところはテキストに戻るようにし、理論は一問一答をベースに適宜テキストに戻るようにしています。
本試験の問題で合格点が取れないということは、根本の理解が足りていないということなのでしょうか。どうぞご教示ください。(ハンドルネーム:みや)
どうも、松本です。
まずは、平成30年第1回の得点階層分布から確認してみましょう。
合格ラインが70%で、合格者数が1,091名
75%の水準で、受験者数が633名
60%の水準になると、受験者数が2,173名になっています。
まとめると・・・
得点率 |
受験者数累計 |
---|---|
75%(375点) |
633名 |
70%(350点) |
1,091名 |
65%(325点) |
1,600名 |
60%(300点) |
2,173名 |
合格ライン70%の前後15%程度のレンジには1,500名ほどの受験生が密集していることになります。
換言すれば、1%(5点)上方に振れれば、100名の受験者をごぼう抜きできることを意味します。
質問者さんは、「あと一問」が足りないということですので、
計算1問を8点と仮定すれば、1.6%≒160名、
理論1問を5点と仮定すれば、1.0%≒100名
の差で合格まで手が届かない状態であることが想定されます。
これまで累計個別受講相談数で1,000名以上の相談に乗ってきた私の経験からするに、あと一問の差は技術的・能力的な差ではなく精神的な差であるような気がします。
そこで、下記にまとめてみました。
「あと1問の壁」を突破する5つの方法
1.ケアレスミスを少なくしようと心がける。
2.試験直前に休みを取って、高火力で勉強時間を確保する。(←社会人限定)
3.今の立場を言い訳にしない。
4.試験終了まで、絶対に諦めない気持ちで臨むこと!
5.一度選択した解答は、よほどの確信がない限り変えないこと!
では行ってみましょう。
1.ケアレスミスを少なくしようと心がける。
大半の受験生は、簿記、財表、管理、監査、企業の全5科目の全てでケアレスミスが1問程度は存在しています。
(例:正しいものを2つ選ぶのに、誤っているものを選んでしまった。)
(例:簿記の問題で売上総利益を算定する際に、売上割引をマイナスしてしまった。)
(例:管理の問題で完成品総合原価を算定する際に、仕損品の評価額を引き忘れてしまった。)
みなさんも思い当たる節があることと思います。
本番で5つ存在するケアレスミスを4つに減らすだけで、「あと1問」の差は簡単にクリアできます。
ケアレスミスを全て無くすことは理想ですが、現実的には数問のケアレスミスは許容すべきです。
そう許容しないと、本番で不必要にガチガチに緊張してしまい却って実力が発揮できない可能性があり得るからです。
解ける問題を増やすことも重要ですが、それ以上に「つまらないミス」を極力減らすことの方が得点力を高める上で大事です。
このことを象徴する私のビジネスの場での実話があります。
とある企業経営者とのミーティングの場にて・・・
-------------------ここから----------------------
経営者A氏「今期の売上は9億円でした。来期は15億円を狙います!」
私「それは随分、強気な営業戦略が必要ですね。何か秘策でも?」
A氏「(会社の属する)マーケットが成長期なので、このトレンドに乗れば問題ないかと。ただ。。。」
私「ただ?」
A氏「ただ、あんまりお金が手元にないんですよね。」
私「ふーむ、、、(決算書を確認中)」
私「利益が出ていないことが要因ですね。売上はあるけど、利益が計上されていません。だから、手元にキャッシュが残っていない状態なんです。」
A氏「なるほど、ではお金を手元に残すための方法を教えて下さい。」
諸々のファイナンス方法を指南する私。そして・・・
A氏「資金の調達方法って色々あるんですね。で、その中から、うちにとって最善のファイナンスの手法は何ですか?」
私「経費の節減です。」
A氏「経費の節減? どういう意味ですか? それって資金の調達方法なんですか?」
私「今期は売上が9億円に対して利益が1,000万円でした。来期売上が15億円になっても利益の着地見込は今期とそれほど変わりません。
なぜなら、新規アプリの研究開発費や広告宣伝のための支出が相当程度膨らむ公算が高いからです。」
私「売上収入が増えても、それと同程度の追加的支出がある以上、資金的な面での根本的解決にはなりません。借入によるファイナンスも財務バランスが悪い現状ではおススメできません。だから。」
A氏「経費の節減なんですか。」
私「そうです。使用していない機材のリース料や店舗使用コストなどを節減するだけでも利益は5,000万円ほど増加できます。」
A氏「そんなに?そう言えば、一度契約したホームページ制作会社にも多額の費用を支払っているような気が・・・」
私「一度契約書を洗って、不必要な契約を全部切りましょう。ムダが多すぎますよ。」
A氏「・・・そうですね。分かりました。そんなに巨額になっているとは知りませんでした。」
私「売り上げが上がり始めると経営がズボラになる経営者は相当多いです。そして意識がどんどん売上至上主義にひた走ってしまいます。これは危険な思想を孕んでいます。」
A氏「どういうことですか?」
私「経営を永続させるために何よりも最優先すべき会計数値は、1に「キャッシュ」、2に「利益」、3、4が無くて、5に「売上」です。」
私「世の中の8割以上の倒産企業は、売上が上がらなくて倒産するのではなくて、手元にキャッシュがなくて倒産するんです。逆に言えばキャッシュさえあれば、どんな会社でも延命はできます。
だから、手元に資金を確保しておくことは、経営上の最優先事項の1つです。
その点で、規模が不透明なマーケットで売上を今より6億円増加させることよりも、5,000万円の経費を節減する方が実現可能性も高いですし、何よりも簡単です。そして手元にキャッシュも残る。」
A氏「そうですね。売上を増やすことは、経費を節減してから考えることにします。」
-------------------ここまで----------------------
売上−経費=利益
という観点から、利益を上げる方法は2点あります。
@売上を上げること
A経費を下げること
このAは経営課題として識別されていない事例も多くあります。でも、最も簡単な利益獲得手法なのです。
翻って、会計士の試験についても同じことが妥当するように思います。
売上を上げる(=出来ない問題を出来るようにする)よりも経費を下げる(=簡単な問題のケアレスミスを減らす)方が利益(トータルの得点)は多くなります。
ケアレスミスは出来た気になっていることや、問題に取り組む集中力が欠如している際に顕著に見られます。
だから、精神的な要因により相当程度左右されます。
2.試験直前に休みを取って、高火力で勉強時間を確保する。(←社会人限定)
短答試験は直前の火力(勉強時間)が重要です。
直前期とは、私は「残り100日」と定義しています。
この時期の勉強は通常期のよりも3倍ほど、学習の効果性が高いです。
だから、何としても時間を確保するよう努めましょう。これは絶対に重要です!
@ 短答までのトータル勉強時間が4,000時間だけど、直前1ヶ月の勉強時間が0時間
A 短答までのトータル勉強時間が2,000時間だけど、直前1か月の勉強時間が200時間
上記2つのケースであれば、Aの人の方が優れた結果を残せる可能性が高いです。
何事も「最後の追い込み」というのは重要です。
学生の人は、大学に行っちゃダメです。
社会人の人は、会社で浮いた人になりましょう。健全な社会人合格者は皆、社内では変な人です。(社外では超エリートですが。)
☆5月と12月の短答前のイベント(ちと辛辣です。)
・大学生の場合
会計士試験の短答直前期は、下記のような学生向けのイベントがあります。
3月:どうでも良い先輩のための卒コン、追いコン(早くどっか行きやがれ)
4月:どうでも良い後輩のための、新歓コンパ(←特に歓迎できる立場でもない)
5月:GWなどという受験生にとってはゴールデンではない週間(←合格後も会計士にはGWはありません。)
11月:文化祭などというカルチャーを感じる意味も意義も感じない行事(←フランクフルトはヒマなバカだけが焼けばいい。)
12月:山下達郎、B'z が流れ出す年末恒例クソイベント前(←こっちは勉強で忙しいんだよ。クソ野郎)
・社会人の場合
会計士試験の短答直前期は、下記のような社会人向けのイベントがあります。
3月:年度末の予算達成のため、無意味な残業が多くなる。あぁ帰りたい・・・
4月:夢も希望もない業界に、夢と希望を持った新入社員が入社する。
5月:「あれっ?あいつどこ行った?」「あぁ、もう辞めましたよ。」(←新人、退職)
11月:勤労に感謝するという謎の祝日あり。(23日は勉強感謝の日だよね。)
12月:飲み会が増える(忘年会多し⇒年を忘れようとするから毎年同じこと繰り返すんだよ。学習しやがれバカ)
このように、短答直前には「ノイズ」しかありません。
世間の動きには絶対に迎合してはいけません。(学生も社会人も無職も主婦の方もです。)
特に社会人の方は、この直前期にこそ、ありったけの有給を消化しましょう。
合格すれば、どうせ辞める会社ですし。(欧米と違って有給休暇の買取制度も定着していない会社の方が多いですし。)
とにかく、高火力で一気に追い込みましょう。
これが、本試験の最後の最後にボディーブローのように効いてきます。
「あと1問の壁」は外的な環境により突破することも十分可能なんです。
3.今の立場を言い訳にしない。
「まだ大学2年生だから。。。」
「サークルやバイトで忙しいから。。。」
「社会人で時間がないから。。。」
「4月から部署が異動になって。。。」
あなたの声が聞こえてきます。
分かります。言いたいことはよく分かります。
でも、こういったセリフは合格者の口からは出てきません。
すごく抽象的なイメージなので、伝わりにくいかもしれませんが、環境や外圧を言い訳の理由にするのは、いわゆる「アウトサイドイン」の思考であり、
合格者が持ち合わせている「インサイドアウト」の思考とは、そのマインドの点で異なるように思うのです。
アウトサイド=外的要因(環境)
インサイド=内的要因(合格の意志、主体性、積極性)
アウトサイドインの思考のイメージ:70⇒69⇒68(合格ラインから縮小する、委縮するイメージ⇒晒されている環境が、合格への意志や主体性を奪うイメージ)
インサイドアウトの思考のイメージ:69⇒70⇒71(不合格ラインから拡大して、突破するイメージ⇒合格への意志や主体性が、合格に必要な環境自体を作り上げるイメージ)
「社会人として働きながら、合格する!」というコミットをしたのであれば、その環境は所与(予め与えられもの)だとして、その環境それ自体を言い訳にするのは止めるべきです。
70%を合格ラインにして、社会人がアウトサイドインの思考を持てば、70%未満の得点力になる可能性が高く、結果的に「1問の壁」をいつまでたっても突破できない要因になり得ます。
だから、どういった状況であれ今の立場を言い訳にしてはいけません。
「社会人で、時間がないことなんぞは重々承知しているが、このワンチャンをモノにして、絶対に現状の環境から抜け出してやる!」
合格する人は、こういったマインドセットを持ち合わせています。
意志>環境 という言い方が分かりやすいでしょうか。
「勉強時間が確保できない環境下で、合格できるかなぁ。」
これは不合格者の思考です。
意志<環境 の典型例です。
すべからく、意志は環境よりも上位に位置している必要があります。
4.試験終了まで、絶対に諦めない気持ちで臨むこと!
これも強い意志のなせる業かも知れません。
企業⇒管理⇒監査⇒財務と続く試験科目の中で、思い通りに行かない科目は必ず存在します。
80点取ろうと思っていた企業法が難化した影響で、60%台の可能性が高い。とか、
管理の没問にハマってしまって、時間配分を誤ってしまった とか。
でも、安心してください。
試験はトータルで決します。
野球やサッカーやテニスやバレーの試合にはモメンタムと呼ばれる「試合の流れ」が存在します。
1回表に4点取られたって、
前半15分に1点ビハインドされたって、
第2ゲームのサービスをブレイクされたって、
第1セットを延長戦の末、落としたって
全然問題ないです。試合を落としたわけではありませんから。
8回裏に5点取って逆転することも、
後半ロスタイムに同点に追いつくことも、
第5ゲームでブレイクバックすることも、
第3セットを延長戦の末、取り返すことも
可能です!!
最後の財務が終わるまでは絶対に諦めてはいけません。
この最後まで諦めない気持ちが、「1問の壁」を突破する精神的な支柱になってくれます。
5.一度選択した解答は、よほどの確信がない限り変えないこと!
最後に、テクニカルなアドバイスを。
試験の終了間際に慌てて変えた解答は、十中八九誤りである可能性が高いです。
人間の第六感(いわゆる「シックスセンス」というやつ)は案外、当たります。
特に初見で触れた問題に対する脳内での無意識的な判断は、過去の潜在的な経験から合理的であることが脳科学で立証されています。
試験の終了間際に慌てて変えた解答は、感情的な焦りに起因する非合理的な判断であり、結果として誤答に繋がる可能性が高いです。
だから、一度選択した解答は、よほどの確信がない限り変えないことを強くおススメします。
過去の自分(+経験)と、最初の自分の直感を信じましょう。
以上です。
参考にして頂ければ、幸いです。
では最後に、私の好きなイチローの格言でお別れです。
イチロー『壁というのは、できる人にしかやってこない。超えられる可能性がある人にしかやってこない。だから、壁がある時はチャンスだと思っている。』
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